絵の中で旅しよう。ぐるっと一周する冒険アート!

デザインも油絵もアクリルも、魅せる作品を作るうえで大切なことがいくつかあります。

コンピューターで作るかアナログで描くかはともかく、平面作品と呼ばれるものは大概この要素が必要不可欠です。

それが、「ぐるっと一周して目が戻ってくる構図!

まずはスタート地点を作る

作品をパッと見たとき、最初に目に飛び込んで来る場所ですね。
ハイライトだったり、強い色だったり、綺麗な色だったり、もしくは印象的な瞳だったり。

具象画でも抽象画でも、この、注目を集めるアトラクティブポイントがある作品は目立ちます。
ギャラリーを覗いたときすぐに目に飛び込んできたり、ウェブサイトで何人もの作家が並んでいたとき、なんとなく「目が合った」ように感じる作品がこの属性です。

もちろんあえて強いアトラクティブポイントを作らず、均一な色や、ほわっとした柔らかさを全面に広げるやり方もあります。
そういった作品で、目が離せないような印象的なものは、実はよく計算され尽くした出来上がった世界だったりします。

イブ・クラインの作品には、インターナショナル・クライン・ブルー(IKB)という、彼自身が作り出した青色が全面に広がっているものがあります。
ほぼ均一に塗られたこの作品の、ではどこがアトラクティブポイントかというと、彼の作ったこの青色こそが主人公であり目に飛び込んでくるハイライトです。

コバルトブルーでもウルトラマリンでもない、新しい青を彼は作りました。
その鮮やかさに目が離せないのです。
(そして彼は柔道4段です。面白い人ですね)

スタート地点は、スタートでありゴールでもある

ぐるっと一周して戻ってくることが何故そんなに重要なのか?
それは、見る者を飽きさせない工夫だからです。

展覧会でたくさんの作品が飾られたとき、またはウェブサイトで、ポートフォリオとして発表するとき、自分の作品に目を止めてもらい、そこで立ち止まってもらい、更にはじっくり鑑賞してもらいたいものです。
そのためにはまずその誰かを引きつけないとダメですよね。
引きつけたうえで、何故か目が離せなくなるように仕向けるのが狙いです。

引きつけるだけなら、インパクトのある何かを作れば成功です。
音楽なら大きい音ですし、絵画作品なら強い色、もしくはエグい何か…です(エロい何かのこともあり)。
ただ、それだけだとお客さんはすぐに飽きてしまいますよね。最初のパンチが強いだけで、それ以降の攻撃がありませんから。

惹きつけるには、また別の要素が必要です。

強い印象で足を止めてもらった後に、そこから遠くない場所に、次の罠をしかけるのです。
RPGゲームでいったら、ラスボスから始まり、そこで引っかかってもらってから冒険に出かけてもらう感じで。

いきなり魔王(ラスボス&ここでは負ける)

記憶をなくした主人公が、始まりの街で目覚める

何故か手に持っていた剣と共に旅に出る

次々と仲間ができる

経験値を上げながら旅を続け、

ついに最初のラスボスを倒しに戻ってくる

このような流れです。

ストーリーがある作品は見るものを楽しませ、考え込ませ、そして記憶に残ります。
またいつか見たいと思わせることができます。
<巨匠>と呼ばれる作家たちの多くは、この惹きつける要素を持った作品を作っています。

私がインパクトを受けて忘れられない作品をいくつかご紹介しましょう!(著作権が許す限り)

いきなりラスボス級『レオナルド・ダ・ヴィンチ』

いわずもがな、ルネッサンスを代表する天才おじさんですね。
ホモだったとかかんしゃく持ちだったとか色々言われていますが、絵がめちゃくちゃ上手かったことは事実です。人間性はまた別の話です。

<聖アンナと聖母子と幼児聖ヨハネ> レオナルド・ダ・ヴィンチ

個人的な感想ですが、かの有名な『モナ・リザ』を見た時よりも、この『聖アンナと聖母子と幼児聖ヨハネ』の方が衝撃的でした。

左の聖母マリアをスタート地点として、マリアの目線に沿って右の聖アンナ→中央のキリスト→右下のヨハネへと移っていきます。
下段になると、下書き的な作品だから描き込んでなくて、「あーやっぱりダ・ヴィンチクラスでも顔の描き込みの方が楽しいのか〜そりゃそうだよね」ってちょっと親近感が湧きます。
で、また上の方に視線を戻し始めると、実はしっかり膝から腿の遠近感が出来上がってて感動します。

そしてスタート&ゴール地点に戻ってくるわけですが、そこでふと、右上の空間が気になってきます。
「あれ? アンナお母さんの指が上を指してるよ?」と、2週目の周回で気づき、「あれ? なんかこの構図、他のレオナルドおじさんの作品でも見たことあるような…」と思いたり、なんだっけなんだっけ…と考え始めます。
(正解は<洗礼者聖ヨハネ>です。でもそれ以外にも結構指差し確認の作品ありますね)

途中で脱線しましたが、この絵を見たくて、もう10回以上はナショナルギャラリーを訪れています。
やっぱり凄い人なんですね。レオナルドおじさん。

かの有名なレンブラント……の弟子!?

初めてイギリスに行ったとき、まだ英語がそれほど上手くありませんでした^^;
だからこの作品を初めて見た時も、レンブラントの作品だと疑いもしませんでした(笑)
正確には弟子、「Follower」の作品です。
こちらもダ・ヴィンチの『聖アンナと聖母子と幼児聖ヨハネ』と同じく、ロンドンのナショナルギャラリーの所蔵です。

The National Gallery, London. Follower of Rembrandt | A Man seated reading at a Table in a Lofty Room

本家ナショナルギャラリーのHPで、この作品を拡大してみてください。


一見、影で黒に見える箇所箇所に、細かい描き込みと小さな色が足されています。
隠れミッキーを発見したのと同種の喜びが得られますね。

この作品の主人公はやはり窓際に座るおじさんだと思いますが、そもそもこのおじさんが本当に本を読んでいるのかが怪しいです。私にはうたた寝しているようにしか見えませんでした。
そして、本を読むにしちゃ暗い部屋だな…と思い、なんの部屋なんだろう? と気になって周りを追いかけ始めると、そこかしこに隠れミッキー…的な小道具を見つけ始めるわけです。

凄いですよね。ぱっと見、光と影だけの絵なんですが、物語がいっぱい詰まっています。

モダンアートにも仕掛けがいっぱい

ルネッサンスまで遡らなくても、20世紀のアーティストの作品にも罠がいっぱいです。

抽象画といえば、カンディンスキーやモンドリアン、そしてジャクソン・ポロックなど、絵にあまり興味のない方でも聞いたことがあるかもしれません。

人物が描かれていなくても、作品の中の小さな冒険に巻き込まれてしまう危険な作品たちです。

<城と太陽>パウル・クレー

パウル・クレーの作品は、実に楽しく旅ができるワクワク系です。
そして「あ、こういう絵って描いていいんだ」と思わせてくれる、とっつき易さを感じられます。

抽象画って、形があってもなくても自由でいいんだ。と思わせてくれるいい人です。

重厚感をバリバリ感じさせるルネッサンスの巨匠の作品もいいのですが、まず間違いなく、現代日本の住宅には似合わないような気がします。
その点モダンアートはもっと気軽で、それこそ気に入った作品を毎日眺めるために飾るならこっちですね。

ぐるっと一周して戻ってくる冒険アート。
いかがでしたでしょうか。

実物を見に行くなら、無料で入れるロンドンのナショナルギャラリーがおすすめです^^(パリのルーブル美術館は2000円ぐらいする)
例のダ・ヴィンチのドローイングが飾ってある部屋は椅子もあって、作品保護のために程よく薄暗くてなおオススメです。うたた寝に最適(笑)

ニューヨークのMoMa近代美術館は、金曜日の午後4時以降ならタダです。
Targetがスポンサーで無料にしてくれていることから、「Target Fee Fraiday Night」と呼ばれています。(だから混みます〜)


もちろん、画面構成や冒険の知識がなくても絵は描けますし、頭でっかちになる必要もありません。
ただ、知っておいて損はないです。
何故その作品が有名なのか? 何故その作家は偉大と呼ばれるのか?
その理由の一端が見えてくるかもしれません。

そして、知識を得た後にもう一度作品を見た時、その絵の中に新たな世界が広がったらすてきだな…と思うのです。

もちろん自分の描く世界にも、さらなる冒険の旅が始まってくれると最高です。

モナ・リザは小っちゃい、は本当だった

ピサの斜塔も同じように、「実際に見たら小さいよ」と言われていますね。
モナ・リザもそうでした。
しかもいっつも人だかりができてるもんだから、近づけないしたとえ近づいても厳重すぎて存在が遠いし……。
ルパンじゃないですが、思わず「さーてここに飾ってあるのは本当に本物かい?」とミステリーな遊びをしたくなるほど近づけません(汗)
同じルーブル美術館にあるダビデ像(ミケランジェロ作)を見た後だと、余計にモナリザが小さく思えますよ〜^^;

逆にMoMaにあるクロード・モネの<睡蓮>は、想像していたよりはるかにデカい…というか横長でした!

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