
人物画や風景画・静物画を描くとき、私は黒い絵の具は使いません。
製品としての黒い物はありますが、自然界に置かれた瞬間から、「黒いモノ」という存在は無くなりますから。
黒く見えるその物体をよく見てみてください。
光や、周辺にある他のものの色の影響で、真っ黒ではない筈です。
昔、専門学校の講師を一時期していたことがありますが、この「黒を使わない」話しも講義の中でしました。
すると大抵の生徒さんは「?」と首を傾げます。
『じゃあどうやって黒いモノを描くんですか?』と。
絵の具を混ぜたことのある方はすでにご存知かと思いますが、色絵の具は混ぜれば混ぜるほど汚く濁ります。
赤に補色の緑、これだけでも汚ーい感じの茶色になります。反対色ですから。
本来なら、黒色が出来上がる訳なんですが、絵の具には製品にするための不純物も含まれているので、完全な純粋色ではありません。
なので、補色を掛け合わせても純粋な黒は生まれてこないんですね。
黒に近い暗い色を作りたければ、絵の具での三原色『赤・青・黄』を混ぜてみてください。
各色の配色にもよりますが、だいぶ暗い、黒に近い色味を作れると思います。
黒いモノを描いてみましょう。
身近にある黒いモノを描くとします。
今回は例えばテレビなど。
まず、昼間の部屋の中で、電源の入っていない状態のテレビを見てみます。
我が家はテレビの右方向に窓があるので、右上から中央部にかけては、黒どころか明るめのグレー、しかも黄色がかっています。
液晶部分は部屋の中の色々な物を反射しているので、暗めな濃度ですがけっこうなカラフルです。
例えていえば、部屋の中を描いて、その画面に幾重ものグレーのグレーズ(おつゆ状にした透明度の高い絵の具を薄く塗ること)を施した感じでしょうか。
更に晴れている日は青空の反射も入りますので、ここに薄い層の青色も追加されます。
テレビの輪郭部のフレームはどうでしょうか?
うちのテレビのフレームはマット加工がしてありますが、それでもやはり真昼間は黒には見えません。グレーに緑やピンクが見えます。部屋の中にある色ですね。
このように、黒い物体でも昼間ならかなり色彩豊かに見えるのです。
電気を点けていない状態でも、カーテンを閉めていても、やはり昼の光というのは強いもので、微かな隙間から入り込んで色味を加えてくるんですね。
では、夜ならどうでしょうか?
もし電気をつけて明かりがある状態でしたら昼間と同等です。
周りにある物体の色の影響を受け、黒本来の黒色にはなりません。
電気を消したら?
夜中なら?
常夜灯も消し、冷蔵庫などのボタンの明かりも消し、スイッチの場所を教える小さな小さなLEDも消し、窓を全て暗幕で覆ったなら……。
おそらくそこには漆黒が存在するでしょう。
ただし、今度はどこにテレビがあるのかわかりませんけどね^^;
そしてこの漆黒を画面に描こうとした時、それは風景画や人物画として成り立つのか?
『自分は漆黒の中のテレビを描いた。例えテレビが形として見えなくても、これはテレビを描いた絵なのだ』
こう主張したとしましょう。
これを聞いた誰かは、一面真っ黒に塗られた面を見て、それに納得するでしょうか?
納得したとして、しかしそれは抽象画の説明を聞いた時と同じ納得の仕方でしょうね。
『私はリンゴを描いた。赤くないし丸くないけど、私にはその時こういう風にリンゴが見えたのだ』
この主張と同じです。
物体は、光があって初めて色を作る
人物画や風景画・静止画を描くとき、光のあたる色彩豊かな面を描くなら、影になる部分は決して黒にはなりません。
黒に見えるけど、色々な色が混じった「黒に近い何色か」です。
そして黒が漆黒として存在するとき、それまで色を発していた部分も漆黒になります。
なんだかちょっと哲学的ですねw
今見えている世界に黒は存在しない。として見てみると、今まで黒だと思っていたモノが色彩豊かに見えてきませんか?
世界はけっこうカラフルなんです。
白の世界もいろいろあります!
以下の記事では、黒の反対の白について紹介しております。
白絵の具って何種類もあり、どれがどれだか、最初のうちは見分けもつきません。
しかも見た目の違いだけではなく、油絵具の白は、混色する色によって化学反応を起こします。
日なたのような優しい白、乾きやすい白、透明っぽい白、ちょっと危険な毒素の入った白…などなど。
白もやっぱり真っ白じゃないんですね。